ヨーク大学日本語科三学年読解教材 AP/JP3000
6.0 Lesson 4: 「同期会」University
Reunion たまたま日本に帰っている時に、大学の同期会があるとの連絡を幹事の一人が電子メールで知らせてくれたので、出席することにした。私は、元々同窓会とか同期会というのはあまり好きではないのだが、クラス会にもなるということだったので、じゃあ行ってみるかと考えた次第である。三十年ぶりで級友に会うというのは、会ってみたいような、みたくないような複雑な気持ちである。会場は東京駅の前にある日本工業倶楽部であった。同窓会総会は午後で夜七時から同期会があると聞いていたので、同期会だけ出ることにした。東京駅近辺もずいぶん変わっていて、まったく分からないので、すぐ交番に飛び込んで、場所を尋ねるとすぐ目の前にあった。近代高層ビルの狭間に昔から残っている古いビルであった。少し時間が早かったので、その辺を歩き回ってみた。皇居の外堀の内側にすばらしい公園が出来ていた。多分たいていの海外在住者が感じることであろうが、昔よく知っていたところに行ってみたら、まったく変わっていた。まさに隔世の感、今浦島である。もちろん、だからどうということはないのだが、やはり一抹の寂しさと、光陰矢の如し、人生の短さを感じる。 七時近くになって会場に出向いた。受付に顔見知りがいた。名前は名札で思い出す。来る人来る人、顔に見覚えがあるが、名前を思い出せる人は数少ない。名前を覚えていた人も、どこで知り合いになって、どういう知り合いだったか思い出せない人が多い。それが、三十年という時の流れを示すものであった。私の所属していたセクションCから集まったのは自分を含めて八人という寂しいものであったが、仲の良かった人が数人いたので楽しかった。かなり変わっている人、昔とほとんど変わっていない人、色々である。面白いのは、性格はあまり変わっていないという印象を受けたことである。もちろん、大学時代の級友に会って、学生時代に戻ったということもあるであろうが、あの当時、こういう奴だったなと思った印象がそれほど崩れなかったように思う。女性の場合も同じで、三十年経っていることが嘘のようであった。元々少数精鋭を売り物にしていた大学なので、学生数が少なかったことと、一時期七つほどの部活をやっていた為に、他のセクションにも知り合いが多かったので、おお、お前かというような同期の人達が多く、当時アメリカから来ていた、一緒に言語学を取っていた女性に会って、話をすると、彼女の方がすぐ英語になった。ある意味で「退行現象」が至る所で起きていた。これは、だれでも経験することであるが、時空を超えて、当時と同じような親近感が生まれ、言葉遣いも学生時代に戻るのは本当に面白い。観察すると、ボディー・ランゲージも確かに変わっている。よく知っていた級友に見栄を張っても仕方がないので、すべてかなぐり捨ててということか。 全体の懇親会が終わってから、同じセクションの五人と近くのホテルで二次会。男が自分を含めて二人だったのと、遠くまで帰らなくてはならない女性がいたので、十時にはお開きとなったが、昔話と近況に花が咲いた。皆五十代なので、親の一人が亡くなっていたり、子供が成長している人が多く、もっと色々話が聞けなくて残念であった。同期会やクラス会を通じて、その後旧交を温めることもまれにあるが、たいていはそのままになってしまうものである。クラス会は、ひととき若いころに連れ戻してくれるが、次の日はまた、日常性に引き戻される。結局昔には戻れない。次に皆に会えるのはいつになるか分からないが、出てよかったなと思った。 1999年5月29日 鎌倉にて 太田徳夫 The Industry Club of Japan © Norio Ota 2008 |