ヨーク大学 日本語科三学年読解教材

AP/JP3000 6.0 Reading Comprehension

第九課「ダ イアナ

Lesson 9: Princess Diana’s death


 

ダイアナ妃の悲劇的不慮の死は、全世界ゆるがせた。一個人の死というでは、同情禁じ得ないが、なぜこうも全世界が親友の死に出合ったかのよ うに騒ぐのであろう か。マスコミはこの報道記事でいっぱい になり、もこの話でもちきりであっ た。私にとっては、現代御伽噺の中の悲劇としか見え ないのだが、多くの人にとってはそうではないらしい。ダイアナ妃が、マスコミによって創られた女性アイドルであったことは否めないし、確か魅力的な女 性であったと思う。また、玉の輿的な華々しい結婚式とそ の後のスキャンダル、 そして離婚と言 う、英国王室舞台にして の波瀾万丈短い一生が、「事実は小説より奇なり」と言う表現ぴったり当てはまるほ ど、人々の心を動かした ことも事実である。特に、伝統桎梏の中 で、普通人間として喜び悩み葛藤した姿に、多く の女性が同情と哀惜寄せる気持 ちも分かる。でも、所詮は、虚構の世界 の話で、彼女がそれに気づいて、地雷禁止条約の ような現実の問題に自分の存在価値見出そうと した矢先事故死して しまったのである。もし彼女が死なずに、ジャクリーン・オナシスのような一生を辿った としたら、どうであろうか。アイドルもきっと地に落ちてい たことであろう。悲劇のヒロインの 死というロマンチシズム酔ってい る人が余りに多 すぎるような気がする。マザー・テレサの死もダイアナ妃の死の色褪せてし まったように見えるし、毎日何千いや何万という無名の人々が、餓死し たり、災害戦争を なくしているのである。人間の命の価値が こんなに違っていいものだろうか。パパラッチ呼ばれ る低俗新聞雑誌記者達無謀ぶりは 確かに目に余るも のがあるが、彼らの書く記事を貪って読 む大衆に も責任が あると言わざるをえない。 これも現代の御伽噺への逃避かもしれない。次のアイドルは誰であろう か。紀元二千年に 後二年と少しになった。ここにも世紀末現象の 一つを見る思いがするが、穿ちす ぎた見方で あろうか。

太田徳夫
トロントにて
1997年9月9日

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